「さくら餅」の面白い歴史と誕生秘話
春の訪れを告げる和菓子として、誰もが愛する「さくら餅」。その愛らしい姿と、ほんのりとした塩味、そして上品な甘さは、日本人にとって春の風物詩そのものです。しかし、このさくら餅が、江戸のブームから生まれたという事実は、あまり知られていないかもしれません。今回は、そんなさくら餅の興味深い歴史と、その誕生にまつわる秘話に迫ります。
江戸時代、さくら餅誕生の背景
さくら餅が誕生したのは、江戸時代中期、具体的には18世紀頃と考えられています。当時の江戸は、現在でもそうであるように、庶民文化が花開いた活気あふれる街でした。歌舞伎や浮世絵、そして食文化も、庶民の間に広がり、独自の発展を遂げていました。
この時代、桜は貴族や武士だけでなく、庶民の間でも広く愛される花でした。春になると、人々は桜の木の下に集まり、花見を楽しむのが定番の行楽でした。そんな桜への愛着が、食文化にも影響を与えたのは自然な流れだったと言えるでしょう。
しかし、意外なことに、さくら餅の誕生には、「ある道具」の普及が大きく関わっていたとされています。それは、「明礬(みょうばん)」です。当時、豆腐を作る際に凝固剤として明礬が使われていましたが、その余りが出ることがありました。この余った明礬が、ある人物の目に留まり、お菓子の材料として活用されることになったのです。
瓦斯(がす)餅と「長命寺」
さくら餅の原型となったのは、「瓦斯餅(がすもち)」と呼ばれるお菓子でした。これは、現在の長命寺(ちょうめいじ)風さくら餅のルーツとされています。
長命寺の門前で、「新之助」という菓子職人が、この瓦斯餅を販売していました。彼は、余った明礬に小麦粉などを混ぜて薄く焼き、餡を包んでいました。その薄く焼かれた生地は、まるで紙のように薄く、「瓦斯」のような軽やかさを持っていたことから、瓦斯餅と呼ばれるようになりました。
この瓦斯餅が、桜の葉で包まれたのは、ある偶然からでした。当時は、まだ現在のような桜の葉の塩漬けは一般的ではありませんでした。新之助は、ちょうど桜の季節に、この瓦斯餅を販売していたのですが、その際に、「桜の葉」が生地に触れたことで、独特の風味が加わったのです。
この桜の葉の香りが、瓦斯餅の素朴な甘さを引き立て、さらに、桜の葉の「塩味」が、生地と餡の甘さを絶妙なバランスに調和させました。この「桜の葉で包む」というアイデアが、さくら餅の決定的な特徴となり、人々を魅了することになったのです。
新之助が考案したこのお菓子は、長命寺の門前で評判となり、江戸庶民の間で「長命寺」と呼ばれるようになりました。これが、現在の関東風さくら餅の原型です。
関西風「道明寺」の誕生
一方、関西地方では、さくら餅は少し異なる形で発展しました。こちらは、「道明寺」と呼ばれる、もち米を蒸して潰した「道明寺粉」を生地に使った、現在の関西風さくら餅のルーツです。
道明寺粉は、元々、大阪の道明寺というお寺で、お米を蒸して乾燥させ、粗挽きにしたものが保存食として作られていました。この道明寺粉を使ったお菓子が、江戸時代後期から明治時代にかけて、関西地方で広まっていきました。
関西風さくら餅の特徴は、その「もちもちとした食感」にあります。道明寺粉を使うことで、独特の歯ごたえが生まれ、食べ応えのあるお菓子となっています。また、餡は、一般的にこし餡が使われ、より上品な甘さが特徴です。
関西風さくら餅も、関東風と同様に、桜の葉で包まれています。この桜の葉の香りが、道明寺粉のもちもちとした食感と、こし餡の甘さを見事に調和させています。
さくら餅の普及と現代
江戸時代に誕生したさくら餅は、その後、時代と共に庶民の間に広く普及していきました。特に、桜の季節になると、各地のお菓子屋さんでさくら餅が販売されるようになり、春の風物詩としての地位を確固たるものにしていきました。
現代では、関東風の長命寺と、関西風の道明寺という、二つの大きなスタイルが確立されています。それぞれに異なる特徴を持ちながらも、どちらも桜の葉の香りと、上品な甘さで、多くの人々を魅了し続けています。
また、最近では、伝統的なさくら餅だけでなく、中にフルーツやクリームを入れたり、生地の色や風味を変えたりと、「様々なアレンジ」が施されたさくら餅も登場しています。これは、さくら餅が、時代に合わせて進化し続けている証と言えるでしょう。
さくら餅の歴史を紐解くと、単なるお菓子としてだけでなく、当時の庶民の暮らしや、食文化の発展、そして人々の「桜」への愛情といった、様々な要素が intertwined していることがわかります。
まとめ
さくら餅は、江戸時代のブームから生まれた、興味深い歴史を持つ和菓子です。瓦斯餅から発展した長命寺風さくら餅と、道明寺粉を使った関西風さくら餅という、二つの異なるルーツを持ちながらも、どちらも桜の葉の香りと上品な甘さで、春の訪れを告げる代表的な和菓子として、今なお愛され続けています。その誕生秘話を知ることで、さくら餅をいただく楽しみが、より一層深まることでしょう。
